プロスペクト理論における損失回避バイアスとは?
投資や投機が身近な人であれば、一度は聞いたことがあると思われる「プロスペクト理論」であって、「損失回避バイアス」だが、どういうものだろうか?
ノーベル省受賞者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが1979年に「プロスペクト理論(Prospect Theory/An Analysis of Decision under Risk)」という論文を発表している。
この論文は社会科学系の学術論文の中で引用回数が最も多いと言われているが、それはつまり、その内容を実感できる人が多いからであろろう。
簡単に言えば、プロスペクト理論とは、「損失をそれと同じ規模の利得よりも重大に受け止める」「わずかな確率であっても発生する可能性があるケースを強く意識する」と、行動経済学入門という本には記載されている。
因みにこの本の4章のタイトルはこうだ。「プロスペクト理論—リスクが存在する下での先行理論」そして、「不確実性が存在する下では人々はどういう行動パターンに従うのか」と続く。
投資、トレードというのは、まさに不確実性が存在する下での行動になるわけだ。行動は判断と注文と読み替え、具体的に言うと、エントリーと保有しているポジションの反対売買ということになる。
投資やトレードでやること(注文)自体は簡単だ。子供でもできる。ボタンを押すだけだ。
だが、そのボタンを押すのが大の大人でも難しかったりする時があるので、困ったものだ。
特に損切は。
何故って、損失回避バイアスの抵抗が強烈だからだ。
負けて損失を出したときの悔しさは強烈
トレードで勝って3万円利益を得た嬉しさよりも、3万円負けた時の悔しさの方が強烈ではないだろうか?
勝ちを確定した後に、良かったなと思う気持ちよりも、負けを確定した後の、悔しいと思う気持ちの方が強かったという経験を持っている人は多いのではないか?
ザラ場での出来事であれば、勝った後にこの日はもう予定どおり終わりにしても、負けた後は、予定外の行動に出たことがある人は多いのではないか?
取り返してやろうと、ボラや出来高の大きなデイトレ銘柄を探して、飛び乗ったり、飛び乗っただけではなくて、一発で取り返そうとロットを大きく張っていたり、事前に検討してもいなかったのに、新規に保有して持ち越したり。
で、その結果はというと・・・。
私はこの手の失敗は、数えきれないほどやってきたな。
兎に角、損失を取り返したくて我慢できなくなってしまう。
ウォーレン・バフェットの21の名言と解説の記事で紹介しているバフェットの法則という本の中にも「損失回避」という小見出しがあるが、そこには「株式市場に当てはめれば、投資家は勝つときよりも負けてお金を失うときに2倍悔しい思いをするということだ」との記述がある。
公営ギャンブルにおける具体例
競馬は12レースまであるが、12レース、つまり最終戦の売り上げは常に安定して高いそうだ。
そして、穴狙いも多いそうだ。
穴狙いの統計をどう取ったのか懐疑的な気持ちもあるが、売り上げが高いのは納得できる。自分自身の競馬場に通っていた時代がそうだったからね。
平成時代のことだけれど、3年連続1千万円以上賭けていた年があったので、データ量としては十分かなと思う。
穴狙いにしろ、本命狙いにしろ、最終レースでその日の負けを挽回できるような張り方をすることが多かったのは事実だったな。ソフトに買い目を毎回入れて収支を記録していたのでね。
12レースで千倍以上の大穴を何度か取ったけれど、トータルのマイナスも大きくて、12レースはやらないというルールを作ったこともある。破ったけれど…。
ま、最終的には競馬をやらないというルールになって、それは何年も遵守しているけれど笑。
ルールを決めておかないと、負け越している人は一発逆転を狙いがちだろう。
ボクシングであればメインイベントが最後の試合だが、競馬をはじめ公営ギャンブルは、最後の一つ前とするところが、主催者のよく考えているところだ。
近年ではその年の最後のレース有馬記念の後にもレースを行っているが、これはやりすぎでイヤらしいなと思ってしまうが。
爽やかなテレビコマーシャルでイメージ戦略したところで、胴元の目的は金儲けだからな。客が幾ら負けようと知ったこっちゃないだろう。だから射幸心を煽る3連単とか導入してきたわけよ。
12レースの売り上げが高い理由は、上述したとおり経験者の私には簡単にわかるが、損失回避バイアスが発動した負け越している連中が束になって、取り返そうとして馬券を買うからだ。
そして、その取り返すチャンスはこれが最後と思うから、財布に残った有り金全てを賭けて、雲散霧消して、オケラ街道をとぼとぼと帰る羽目になったりするのだ。
でも、取り返すチャンスは本当にそのときが最後だろうか?
違うんだよ。
これには別のバイアスも発動していて、人間は近視眼的になりがちなのだ。
誰だって負けることはあるし、ピンチを迎えることはある。しかし、そういう状況になっても、冷静に今が本当に買い時か、売り時か、を見極めて、コントロールできる人だけが、相場で生き残り、そして財産を築けるのである。
映画や漫画や小説の世界の豪快なばくち打ちとは違って、実際に勝ち残っているギャンブラーは、無理はしない。
押すときと引くときをきちっと弁えていて、自己管理と資金管理の出来る地味な男だったりする。
宵越しの金は持たないなんていう威勢のいい感じでは勝ち続けられない。
今日は調子が悪いと思ったら、それ以上深追いせずに負けを確定させて、翌日以降に来るチャンスをじっと待っていられる人だ。
つまり「上手く負けられる」ということで、損失回避バイアスを早々に断ち切っている。とも言える。
勝負の世界はアツくなった方が負けなのだけれど、投機は勿論、投資だって勝負事の側面はあるわけでね。
取り返そうとアツくなることが多い奴は、長期的に見ると相場という戦場では生き残れない。強者の餌食になってしまうだろうね。過去の私がそんな感じだったけれど。
競馬以外の例題はあちこちで紹介されているので、敢えてここには書かないけれど、トレード経験のある人は身を持って納得できるバイアスではないだろうか。
損失回避バイアスの強弱
このグラフも有名だけれど、参考に載せておく。
「Gain」が利得で、「Losses」が損失だ。
横線は、右側が得られた金額、左側が失った金額。
縦線は、上が嬉しさ(満足度)、下が悔しさ(不満度)。
赤線の同じ金額で比較してみると、利益に対するプラスの感情よりも、損失に対するマイナスの感情の方が大きいということである。
それがつまり、損失を回避したいバイアス(偏向)ということになるが、図を見て面白いことに気が付くだろう。B、C地点を境にカーブが緩やかになっている。
これはこれでやっかいなのだ。
損失回避バイアスの邪魔が減ったというよりも、金額が大きくなり過ぎて麻痺したということで、レバレッジかけての信用取引の場合など、忍び寄る追証の陰に鈍感になっている状況だったりすることもある。
気長に待てれば戻ってくるような株価での現物だったら、こうなってしまっては塩漬けがベターというケースもあるが、例え現物でも、損失を抱えているポジションが、バブルの頂点やイナゴタワーの頂上付近だったりしたら、マズイよね。
損失回避バイアスは、勝っているときにも発動している
タイトルの「大きく負けて小さくしか勝てない理由」だが、冒頭で触れたように、勝っている状況であれど、それは「不確実性が存在する下」なわけで、またいつ下がるか分からない状況下において、損失回避バイアスが発動して、今ある利益が減って損しないように確定させてしまおうとするからである。
一方で損失を抱えている状況では、その痛みが大きすぎて、根拠が薄くてもまた戻るだろうと期待して、目先の損失を確定することを回避してしまうから、期待通りの値動きをその後しなかったときに、どんどんと損失を膨らまして、大きく負けてしまう。というわけだ。
損切をしないで、無計画なナンピンをする。というのは、損失を回避したい典型的な行動だろう。
損失回避バイアスが発動し、理想の損小利大とは逆になってしまうということだ。人間の性として自然に導かれる結果であって、普通のことと言える。
損失回避バイアスを回避するには?
所謂トレードに向いているという人は、このバイアスが生まれながらにして、希薄であっさりと損切が出来たり、利益が乗った後も握り続けられる人である。
バイアスというのは本能的なものなので、凡人の場合は、経験と理解したうえでの訓練をしないと乗り越えられない。
しかし、訓練して乗り越えたと思っていても、バイアスが発動してしまえば、それまでだ。
だから、利確の注文と、逆に動いたときの損切用の逆指値注文を先の日にちまで有効の状態にして出しておいて、株価の情報をシャットダウンするというのも手だ。
知らなければ、バイアスの入り込む余地がない。
ルールを作って、いかなる状況であれ、機械的に遵守するということも有効だ。
このルール自体がナンセンスであれば、意味をなさないが、経験を重ね、学習を重ねたうえで、バイアスが発動していないときに作ったルールであれば、その場の感情に左右されてトレードするよりも優れているものだ。
そのルールを守り続けるということが、大事だ。そのルールが有効である限りは。
私は破って失敗したことがある。それまでルール通りに損切をしていたが、2度続けて、損切せずに持ち続けていればその後間もなくして、逆に利確が出来ていたということがあった。
そして、同じような状況が次に来た時に、前の2回の残像が邪魔してルールを破って、戻りを待った。しかし、今度は戻ってこなくて、でっかい損失を確定させたことがあった。
みんなには同じ轍を踏まないようにしてもらいたい。
想像以上に強烈なのが、損失回避バイアスなので、気を付けてもらいたい。
これは投資や投機に限らず、生活全般で時々あなたの平和な生活を乱す要因であったりもするのでね。
人生は諦めてはいけないことも沢山あるが、諦めが肝心なのことも沢山ある。
投資以外でとっとと諦めた方がいいことの例で、イライラした気持ちや怒りの感情がある。
プライドが傷ついて、言い返せずに損した気持ちを引きずっているのが原因だとしたら、その損失回避バイアスをとっとと断ち切って、嫌な奴や嫌なことを忘れてしまった方がいい。
損失を回避したいバイアスは、未練として失恋でも発動しているだろうな。
金も時間も同じくらいにあなたにとって大切なものだ。
ああ、今、バイアスが発動しているな、とっとと片付けておこうと、客観的に自分を理解できるようになると、投資もトレードも生活もきっと向上するだろう。
未来の自分のために、上手に負けておこう
何にしたって、勝ち続けるなんて無理なんだよ。
長く続けていくことであれば、五分五分でも良いほうで、六勝四敗なら上出来だよ。
そう考えると、いかに上手に負けるかっていうのが、大事だって分かるだろう?
後々まで引きずるようなダメージを残さないように、さっと負けてしまうってこと。
明日以降も続けていくんだから。
それは勝負事や投資だけでなくって、職場や家庭でもそうよ。
相場と一緒で、あなたが頑張ったところで、どうせ相手は変わらないんだから。
金と同じで、時間の無駄遣いしないで、とっとと損切しちゃいなよ。
損失が小さなうちに、上手く負けておきましょか。
後でいいことあるでしょう。きっとね。