機関による踏み上げで追証発生|東芝粉飾決算祭りでの悲劇

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東芝粉飾決算

2017東芝粉飾決算事件で発動した確証バイアスと追証

「部屋とワイシャツと私」という昭和歌謡のヒット作をご存知だろうか?

「追証と踏み上げと私」初めこのタイトルをつけようとしたけれど、検索エンジンに評価されなさそうで見直した。

好きな男のことを想って部屋にいる女は、ルンルン気分で歌を口ずさんだりするのだろうが、そんな心境とは程遠かったのが、2017東芝粉飾決算事件に巻き込まれた当時の私だった。

まぁ、巻き込まれたというか、自分から飛び込んで行ったのではあるが…。

ヤフー掲示板のしょーもないポジショントークを震えながら夜な夜な読み漁っては、売り残の多さを忘れさせてくれる安心材料を集め、「東芝」で1時間おきにググってはニュースを読み漁り、なんとか自分のポジションを後押ししてくれる材料を朝昼晩とかき集めていた。

一方で、売り長の需給を指摘したり、国策だから国は絶対に守るといった類の買い方のコメントは聞き流していた。

自分のやっていた行為は、確証バイアスによる愚行と当事の私は知りもしなかった。

正しいことは資金管理の側面から、信用維持率キープできる範囲でのロットに押さえることと、それが出来なかったとして、追証の懸念が生じた時点で即刻手仕舞いとすべきだった。

そしてぐっすりと眠ればよかったのだった。

今振り返ると、あんな博打銘柄で、あんな需給で、フルレバの純カラを握り続けるとか正気の沙汰でなかった。無知とは恐ろしいもんだ。

私は東芝粉飾決算のイベントで生まれて初めて空売りをしていた。

つまりど素人の初心者だった。

そして、養分となるべくしてなって、壮絶な踏み上げをくらっていた。

仕事の移動中に強烈な勢いで大きな売り板を喰っていく買い勢力をスマホで目の当たりにしながらも、何もせず戻ってくるのを祈るだけだった。

その後一度大陰線で下げたときに、今でも憶えているが「売り方オメ!今夜はビールが旨い!」みたいなコメントをヤフーファイナンス掲示板に書き込んだものだった。

「かんぱ~い」なんて返信もあって平和だったもののそこが底で、230円付近で数日揉んだ後大陽線をつけた。

あそこが最後に残された唯一の逃げ場だったのだから、期待で保有し続けずに、損切を執行すべきだった。

その後250円くらいまで落ちたもののそこからするすると上昇して、あり得ないと思っていた300円のその上へと株価は飛んでいった。

今の私はそこで何が起きているかの想像はつくけれど、初心者の私は何も分からなかった。

こういう自信過剰バイアスで戦場に乗り込んできた初心者のカモが養分となるのだ。

株式市場は戦場だという認識を持たずに、毎日毎日私のようなカモがネギをしょってやってくるのである。

まぁ手数料で稼ぐ証券会社や紹介料を稼ぎたいメディアは、口座を開設してトレード回数を増やしてもらえるような宣伝活動をするのだから、無知なカモが一攫千金を夢見て参入してくるのも仕方ないことだろう。

政府だって貯金より投資をなんてキャンペーンやってバックアップしているのだし。

私も信用取引手数料無料キャンペーンで信用取引を初めて始めて、短期間で大金が手に入ることの繰り返しでドーパミンが出まくってすっかりギャンブル脳になってしまい己を見失ってしまった。

手数料無料でお徳どころでない3桁(万円)の金を失ってしまったのだった。

もちろん、行き着く先はお決まりの追証だ。

このときは初めての追証で、間違った処置を必死に行っていた。

定期預金を解約し、証券口座へ移動させ、補填を何度繰り返しただろうか。

せめて最初の追証でスパッと切っておけばよかったのだったが、 岐阜暴威に学ぶ|損切ができないバイアスの怖さで紹介している「寄り付きで切ればよかった」連呼のように、心の中では「あのとき逃げておけばよかった」と何度も後悔しつつも、そこまではまた戻すと思いたくて確証バイアスを発動しまくっていたけれれど、結局持ちこたえられなかった。

最後は会社を抜け出して、サボり時間を楽しんでいる休憩中のサラリーマン達で賑わっている喫茶店で、悲壮な顔して株価が下がるのを祈りながら粘って、14時台に人生初の大損切りを執行したのだった(その後もっと大きな損切りを何度も経験することになるのだが…)。

機関が束になって踏み上げてくれば、想像を超えて株価は上がる

あのとき私のような被害を受けた個人投資(投機)家はたくさんいたことだろう。

自業自得と思われるだろうが、被害を受けたという表現を使うのは、やはり今振り返ってみてもルール違反を東証が行った事実があるからだ。

国ぐるみの大忖度があったのは間違いなくて、見せしめに牢屋に入れられたホリエモンのライブドアは上場廃止になっているけれど、悪質さと粉飾した金額の規模はライブドアよりはるかに東芝の方が大きかったのだったのに、2部降格で一応の幕引きとしたのだった。

上場廃止を計算に入れて売り込んだ連中の目論見は幻に終わった。

こういうことがまかり通る世界だということを、今の私は数多くの経験を経て理解しているので、思惑が外れる場合も考慮しながら慎重にポジションを取ることが出来るが、(むしろ需給と機関投資家、個人投資家のポジションを推測しながら、逆にロングで入っていたかもしれない)当時の私は確証バイアスで下がることしか頭に入ってこないバカなお祈りトレードをしていた。

ヤフーファイナンス掲示板の雰囲気は売りが正義という雰囲気だったし、平常運転の大抵の掲示板と違って、ショートが支持されている感じだった。

その偏った雰囲気だけでも買いの材料なのだが…。

その中でとあるコメントが印象的だった。その人は私と同じで踏み上げられていて、追証が点灯したという局面だった。

既に数千万円突っ込んでいて、個人の資金ではフォローしきれず、会社の金に手をつけて数千万円補填するということを書かれていた。

彼は町工場の社長だった。

「中小企業は同じ状況になっても決して国は助けてくれないのにおかしい、こんな不正がまかりとおるなんて許せない」といった内容の書き込みで、「そう思う」のボタンが沢山おされていていて色がピンクに変わっていた。

私もそう思うボタンを押した一人だった。

その人はその後どうなっただろうか?その後の株価の上昇を考慮すると逃げ切れなかったと推測する。悪ければ会社を潰しただろうし、良くて、我に返って損切して、会社だけはなんとか残せたというところだろう。

私は会ったこともない全くの他人だが、正義感が強くて信念を持った一本筋の通った漢なのではないかと思えた。

だが、ことトレードの世界では、その信念や正義感が命取りになってしまう。

バイアンドホールドの現物長期投資でない投機よりの売買であれば、朝令暮改ウエルカムで思惑が外れたと思ったら速攻手仕舞ったり、手のひら返して反対ポジションを建てられる人間でないと生き残れない。

至る所で騙し合いが行われ、時には国家と東証がグルになってルールを捻じ曲げたりもする魑魅魍魎の棲む鉄火場だ。

ウェンチングハウスの失敗で決算はズタボロのうえに、粉飾決算までしている企業の株がぐんぐん上がって300円を超えるだなんて思いもしなかった。

踏み上げ相場はそんなことは無関係に需給で動くと、素人の私はその時初めて思い知った。いや、そういう事実があるから一方に傾いている信用残を一掃すべく、機関が束になって個人を締め上げに動かしてきたのだった。

2017東芝株価推移

2017東芝株価推移(注意:画像の株価は株式併合前当時は1/10だった)

偏った情報収集は命取り 確証バイアスには注意すべし

あのとき私の頭の中は確証バイアスに支配されていた。そもそもヤフー掲示板に没頭している事実が、初心者であって負け組みなのだけれども、素人の失敗としては典型的で分り易い例だと思う。

初心者がハイレバで追証の危機に晒され、損失回避バイアスが邪魔してロスカットを執行できなくなっているときは、大抵不安でヤフー掲示板やネットで関連記事を探し回り、その中で自分のポジションを肯定する解釈ができるものを支持するようにできている。

これが確証バイアスというやつで、人は知らず知らずのうちに自分に都合のいいように解釈しようとするのである。

例えば喫煙者は、タバコが体に百害あって一利なしという医学的な事実よりも、ストレスを軽減してくれるからトータルでは体にいいとか、若い頃から吸っていても長生きする人もいるとか、そういう自分のやっていることを肯定してくれる情報を自分にとって都合よく捉えて、反対に否定するような情報は過小評価し、安心しようとしがちだったりするが、そういう隔たった情報収集を無意識に行うのが確証バイアスである。

最近のヤフー掲示板で見られた典型的な例は海運大手の銘柄だろう。

ノーポジで眺めると傾向が良く分る。

含み損を抱えている連中の傷のなめあいと、確証バイアスに満ち溢れたコメントと、解釈と、それを端的に表している「いいね」ボタンの数。

その後株価はどう動いたかというと、含み損を抱えた連中の希望を打ち砕きハイレバトレーダーの息の根を止めるべく大口連中が売り浴びせ、早めに危険を察知したロングポジションの投げと乗じてショートを入れた連中の売り、そして今の時代は心無き学習者アルゴリズムが売り方に回って大陰線を造るのだった。

商船三井日足チャート 2021年5月~10月

商船三井日足チャート 2021年5月~10月

確証バイアスにやられた弱小個人はそんな現実を目の当たりにしても、未だにバルチック海運指数や配当利回りについてコメントし、いいねを沢山得ている。

それを眺めて、含み損はそのうち解消されるだろうと思い込もうとする。

一方では口の悪いバカも少なくないが、売り方にも客観的な事実を書き込んでいる人もいるが、切羽詰った買い方はそんな声には耳を傾けず、せいぜいそう思わないボタンを押すだけしかできない。

ヤフーファイナンス掲示板より抜粋

ヤフーファイナンス掲示板より抜粋 9/29コメント

ヤフーファイナンス掲示板より抜粋

ヤフーファイナンス掲示板より抜粋 10/1コメント

「そう思う」ではなくて、「そう思いたい」ではないか?と自分を疑うことも必要かも!?

その後株価がどう動いたかと言うと、寄り付き後10,060円の高値を付けた9/27から14営業日後の終値は6,370円だ。

その間、商船三井という会社自体は、平常運転でなんら悪材料を出していない。

業績も良く、配当利回りも超優良で、こんな株が下がるはずがないという信念で握っていた人はどうなっただろうか?

現物は助かる可能性がないとは言わないが、高値掴みの信用取引組みは絶望的だろう。

まして維持率の低い信用ハイレバ組みは追証で強制退場となっただろう。

現物組みだっていったん手放して、また下がったところで買い直せばいいのだ。

 

チャートだけ見れば、イナゴタワーのてっぺんのようにも見えるはずだ。

ノーポジで、ノーバイアスの人からみたら、例えそれが初心者だったとしても。

危ないから今は買わないで見送るという判断は簡単に出来るだろう。

だけれど、同じノーポジの状態になるだけだが、損切をするのは、損失回避バイアスや確証バイアスが邪魔するから難しい。

それにしても、2017東芝祭りはすごかった

連日数千万株の出来高で連日売買株数も代金もトップで、億万株の売買が行われていた日も何度もあった。

世界中から膨大な金が集まった巨大な鉄火場だった。

340円前後でのダブルトップでの追証狩りで気が済んだのか、その後出来高も株価も徐々に下がり、7/14の終値は231円そして東証1部から外れる7月末に246円をつけて一旦底を打って、それからまた株価は上がっていった。

冬の終わり頃には200円を割っていよいよ上場廃止かと思ったものだったが、何もなかったかのごとく、2部降格だけで片付けられたのだった。

全員参加型のお祭りで、勝ったのは正義の空売りを仕掛けた個人ではなくて、売り浴びせ、そして、踏み上げて、個人を養分として食い尽くしていった大口だった。

勿論、上手に波乗りして儲けた個人もいるだろう。

今でこそ理解しているが、あの頃から勝ち組のほとんどはアルゴリズムトレーダーだったと思う。

要するに人間の心を持たない機械による自動売買。

アルゴには心が無くてバイアスとは無関係に動けるわけでね。

そんな連中が束になって押し寄せてきたらいとも簡単に個人など潰されてしまうのだ。

もっとも、東証にとっての大口顧客の機関投資家は、東証が上場廃止にしないというシナリオも個人が空売りに励んでいるその時には既に掴んでいたのだろうが。

 

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